眠り姫の憂鬱
「…矢野さん…」と歩きながら呟くと、

「雨宮さんの1つ下の後輩ですよ。
受付は人事部の所属で、受付を任されていたのは6名で、交代で2名ずつ勤務しています。」と話す。

「誰かっていうこと以外は…ボンヤリと覚えています。」と言うと、

「なるほど。
雨宮さんはお客様の顔をよく覚えていて、
対応も丁寧だったと聞いていますよ。
華やかな女の子ばかりですけど、
雨宮さんは控えめで真面目で男性のお客様のお誘いは断っていたと聞いています。」
と後半部分はショウゴさんの顔を見ている。

「そうでないと困る。」とショウゴさんは眉間にしわを寄せる。

「あんまり会社でイチャイチャしないでくださいね。…車の中のような顔は困ります。」
と遠藤さんは笑ってショウゴさんに言っている。

…えっとそんなにイチャイチャしてたかな?

「雨宮さんは覚えていないのでしょうけど…いつも険しい顔で仕事をしているんです。
もちろん、受付を通る時も…きっと近寄りがたいという評価の人物だと思いますよ。」と微笑む。

「…ミノルがメンドくさい仕事ばかりさせるからだ。」

「仕事だから仕方ないだろ。
…まあ、美月ちゃんがそばにいれば随分評価も変わるかもしれないね。」と砕けた口調だ。

「ミノルは同期で人事にいたんだ。何度も研修で話したりするうちに気があってね。
秘書課に異動してもらったんだ。」と私に説明する。

「横暴な男だろ。…でも、面白い男だし、…まあ、仕事もできる。
こいつの秘書ならやってもいいと承諾してやったんだ。」

「ミノルの遠慮のない意見は貴重なんだ。俺が間違わないように見張ってくれる。」

「でもさ、雨宮さんの事は俺も気づかなかったな。
…最近週明けに機嫌が良い。って思ってたら、急に婚約だもんな。
週末に美月ちゃんと会ってたって訳だ。」と私に笑いかける。

「もう、良いだろ。ランチの時間に間に合うように仕事するぞ。」とショウゴさんは顔を赤らめ、足早に歩き出した。
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