今から一つ嘘をつくけど

 『恋に落ちる』とは、言い得て妙だ。

 恋はする、のでは無くて落ちるのだ。何が切っ掛けでどんな理由かも分からないうちに、落とし穴にハマるようにストンと唐突に。抗う事なんて出来ない。だって、落ちてしまうんだから。

 私は……まだ、落ちてはいなかった。そもそも、これは恋なのだろうか。そんな疑問も頭をよぎる。

 もしかしたら、晴夏さんに失恋したばかりの私は、諏訪さんをその代わりにしようとしているんじゃないかな。彼は晴夏さんの弟だ。だから……

 でも、晴夏さんを想う時とは全く違う感覚が度々私を支配する。


 この身体を侵食する熱と痺れは、諏訪さんに対してだけの熱さ。


 だから私は、それが何だかまだ分からなくて。諏訪さんという穴の縁で、その中をドキドキしながら覗き込んでいる気分。

 落ちてはいない。まだ、たぶん……





 私が客注の品の発注を間違えるという大失敗の翌日。朝一番で取りに来られた横溝様に、無事に商品を引き渡す事が出来た。大事な結婚式の日に、余計な泥を付けないで済んだのは、全部諏訪さんのお陰だった。

 武田店長にも少し叱られたし、迷惑を掛けてしまった海莉ちゃんやバイトさんにも謝って。諏訪さんに言われていたレポートもその次の日には提出した。改めて自分の仕事のやり方を見直し、もうこんな失敗は二度としないように、商品発注や客注は三度確認をするように対策もとる事にした。

 いろいろやっているうちに、他にも私にはまだまだ足らない所があるのを発見した。どうやらあの失敗が少し私を成長させてくれたみたいだ。




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