今から一つ嘘をつくけど




 翌朝、いつもより早く目が覚めた。……目が覚めたというか、やはりあまり眠れなくて。起きてしまったという方が正しい。

 仕方が無いので少し早いけど、支度をして出勤した。

 お店に着くと、まだ同じ早番のバイトさんも来てなくて一人きり。でももしかして前みたいにバックヤードに諏訪さんがいるかもしれないと、ドキドキしながらドアを開けたけどそれも無かった。

 少しホッとして開店準備を始めようとすると、机の上に武田店長からのメモがある事に気が付いた。


『晃ちゃんへ

朝の納品でフォトフレームが届きます。横溝様客注で明日の朝、引き渡しの物だから、全部ラッピングしておいてください。

武田』


 ああ、そういえば。横溝様は私が担当したお客様だ。今度結婚するので結婚式の引き出物にと注文された。横溝様はもう何年も前からこのお店、アンティークスワンのファンでいてくださって、引き出物を是非ここの物にしたいと思っていたそうだ。

 選んだのは、アンティーク調のフォトフレーム。輸入物で数量も多かったので在庫が無く、注文して船便で届くまで一月もかかってしまった。

 だから横溝様への引き渡しもギリギリで。結婚式のある明日の朝、お店へ本人が取りに来て式場へ直接持ち込む事になっていた。

 武田店長のメモを読んで、何だかホッとしてしまった。

 横溝様の客注は六十個。それを他の仕事もしながら奇麗にラッピングする。忙しく働いていれば、これ以上余計な事を考えなくて済む。

 一時的だけど、少なくとも仕事中は。




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