今から一つ嘘をつくけど






 それから、車が私の小さなアパートの前に止まるまで、諏訪さんとあまり会話はしなかった。

 だけど黙っていても嫌じゃない。むしろゆったりとリラックスできる、心地の良い空気だった。途中、寝ててもいいぞって言ってくれたけど、私は起きていた。

 時々運転する諏訪さんの横顔を盗み見ながら。


 車を降りて、今日のお礼を言った。もっと何か言いたかったけど、何を話せばいいのか分からなくて。結局『ありがとうございました』って、それだけしか言えなかった。

 自分の部屋へ向かって歩き始めると、助手席の窓を開けて諏訪さんが私を呼び止めた。その声に振り返る。


「神楽木、また、行こうな! それと……おやすみ」


 胸の中が、痺れるようにジンと熱くなる。その痺れと熱が身体の中で波紋のように広がる。

 何故か私は泣き出しそうになってしまい、ペコリと頭を下げるだけで精一杯だった。


 去っていく諏訪さんの車。その赤いテールランプが見えなくなるまで、私はその場に立ち尽くし。

 ドキドキと忙しなく鳴る心臓の音を聞いていた。




















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