飛べない鳥に、口づけを。
ファンサービスをひととおり終え、菜緒ちゃんの待つ入り口を見る。
すると、夕陽に染められた扉を背景に……大好きな菜緒ちゃんが立っていた。
全力で走った。
俺の足からは痛みも消え、かつてのように違和感なく地面を蹴る。
「菜緒ちゃん……」
泣きそうな顔で彼女の名前を呼ぶ。
少しずつ菜緒ちゃんが近付き……
「樹君……」
彼女の頰を涙が伝った。
菜緒ちゃんの気持ちなんて分からないのに……
俺は彼女を力の限り抱きしめていた。