飛べない鳥に、口づけを。





矢沢さんは相変わらずニヤニヤと笑い、あたしに聞く。




「仕事の話もいいが、俺が一番気になるのは、小沢のばーちゃんの孫の話だ」




その言葉に飛び上がりそうになる。

いや、飛び上がっただろう。

だって、樹さんを思い出すだけで鼓動が速く、胸が熱くなるのだから。

恋って恐ろしい。

こんなにもあたしを心身ともに侵食していくものなんだ。

だけど生憎、浮かれているのはあたしだけだ。





「あの……樹さんとは何もありません」



あたしの返答に、



「樹さん!?」



矢沢さんは大声を出していた。

驚いているのは矢沢さんだけではない。

南さんもぽかーんとしてあたしを見ている。

あたしは、なにかまずいことでも言ったのだろうか。

だけど、想像さえつかない。


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