恋の人、愛の人。
ブー、ブー、…。ん?梨薫ちゃん。

【お店、まだ開いてますか?】

何かあったな…。仕事中は滅多に返さないけど。

【開いてるよ】

開いてなくても開けておくさ。わざわざ連絡してきて、裏の部屋じゃなくて店に来たいって事なんだからな。



「こんばんは…」

「来たな、不良姉さん」

「不良おばさんて言わなかっただけ許してあげます。飲みに来た人を不良呼ばわりしたらお客さんみんな不良ですよ?」

「こんな時間になって来る梨薫ちゃん限定だよ。普通はもう寝てる時間だろ?」

…。

「いい事と、そうじゃない事が入り混じったか…複雑な顔してるな」

「うん…。中身は辛いです。だけど、人の気持ちが解ったから…。腐ってしまったら駄目だと思って。口先だけ…表面だけでも元気になろうと思って…」

「で、アルコールなんだ。何にするんだ?」

「…二つ、お願いします」

「二つ?お代わりにじゃなくて、二つ一緒に?」

「はい。同時に二杯」

「…解った。では…、何に致しましょうか?お嬢さん」

「キールと………ギムレットを、お願いします」

「ん…畏まりました」

お店の雰囲気以上に静かだった。

「まず、キール…そして…ギムレット」

あ。キールは私の前に、そして、ギムレットは隣の、人の居ない席の前に…。
…陽佑さん、解ってるんだ。そうよね、陽佑さんはこれまで沢山の人の人生を知ってる…聞かされてる。…バーの…そういうの、本職だもんね…。

キールのグラスを取り、ギムレットに傾け、一口、口にした。

「本当に…もう二度と会えない人になっていました」

「ん?…ん…」

気づかない振りで聞いてくれてる。

「…やっと、本当の意味で終わりだと解りました」

「そうか…俺にも一杯くれないか」

「いいですよ。好きな物をどうぞ」

「ああ。ちょっと可愛いやつにしてみるかな」


シェイカーを振り終えてグラスに注いだ。

「それは何?」

「ん?これは、アプリコットフィズ。
ブランデーにアプリコット、レモンジュース、シロップ、ソーダ割りだ。甘くて度数も低い。可愛いだろ」

「…へぇ。聞いても何も返せないけど、可愛くて好きです。今度ください」

「きっちり覚えておくよ。……じゃあ、頂きます、お嬢さん?」

「はい、どうぞ」
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