恋の人、愛の人。


じっくり作るからといってもそう手間が掛かる事もない。
煮るものは先に出汁を取り、材料を切って火にかけておけば出来上がる。
だし巻き玉子を焼く傍らでお味噌汁は作れる。
コンロが三つあるから色々作る場合は助かった。
煮物はある程度煮たら火を止めておけば冷めていく段階で味が染みる。

「何か手伝おうか?」

書斎で先に片付け物をすると言っていた部長が覗きに来た。大体、廃棄する物の仕分けは済んだのかな。

「では、お皿を出してください」

「解った」

トータルで揃えられた物だと思う、シンプルな器だ。
それぞれ盛りつけ並べた。

「…出来ました。煮物は残る程あると思いますから、後で冷めたら冷蔵庫にしまいますね」

「ん、また食べられるんだな。あ、あの漬け物も作っておいて欲しい」

「解りました」


食事をゆっくり済ませ、片付けてから仕事に取り掛かった。
仕事と言っても、要らない物をシュレッダーにかけたり、書類の整理を頼まれた。
あまり大した事は手伝えなかったのだけれど、部長は助かったと言ってくれた。
必要のなくなった物はつい置きっぱなしになる事が多くて、こんな風にしなければ溜まる一方だと。

会社で仕事をしていたとしたら定時の終業時間になった。

「…あ、時間だな。仕事はここまで。終わりだ。
送って行くよ」

そう言われてまた車に乗せられた。

真っ直ぐ部屋に送られた。

「今日は我が儘につき合って貰って有り難う。では」

あっさり帰って行った。

…まあ、あれだけ男のエロの話をしたら…。こうなるか…。いや、別に、何かされる事を期待した訳ではないけど。
部長の部屋に帰ると決めた辺りの雰囲気は、ちょっと何かを孕んでいたようにも思えたけど…。
それがマズイと思ったのかも知れない。一緒に居られる時間があればそれでいい、くらいの事だったのかも知れない。

一つけじめをつけておかないといけない事がある。

その目的の為に私はそのまま出掛けた。
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