君がいた冬

第6話

雪化粧した峠を越え、賀代の住む町へ。
晩秋と初冬の境目よりも少し冬側にいるのかもしれない。

待ち合わせ場所のバス停の近くに、約束の時間の20分前に着いた。
ルームミラーをこちらに向け、顔を少しの間見たあと、元の角度に戻す。

待ち合わせの時間になっても賀代は現れなかった。

「ま、よくあることだわな。」

つい、独り言が出てしまう。
旅人同士の口約束なんて、反故にするためにあるようなものさ。
そう気取ってはみたものの、あと15分待ってみることにした。

ほどなく賀代が現れた。

「シン君、待った?」

「いや、今来たばかりだよ。なんか、久しぶりだね!」

「言うほど久しぶりやないやん」

賀代は笑った。

さっきまでの諦め混じりの虚無的な気分は、もうどこにもなかった。

「シン君、朝日温泉知ってる?すごくいい温泉なんやけど、そこに行かへん?」

「今日は、賀代ちゃんの案内が頼りだからね、その温泉に行ってみようよ。」

賀代の案内に任せてクルマを走らせる。
このあたりの道に明るいようで、ひとつの間違いもなくナビゲーションしてくれる。

急峻で狭い坂道を登ると、その温泉に着いた。

「じゃあ、シン君もゆっくり入ってな。」

湯に浸かりながらニヤけていた。
まだ知り合って間もないのに、もう恋人同士みたいだな、いやいや、そこまでじゃないだろう…

そんなことばかり考えていた。
いつもの僕なら、湯の質のチェックを怠ることがないのに。

湯から出たあとも体は冷えなかった。

クルマの中で、賀代が戻るのを待っていた。
待つ時間にさえ胸踊るのは久しぶりの事だ。

「お待たせ~。」

賀代もよく温まったのか、幾分頬が赤く染まっていた。

賀代の案内のままクルマを走らせる。

「ウチが好きな食堂があるんやけど、そこでご飯食べへん?」

嬉しい誘いに乗らないわけがない。

「いいねえ!行こう行こう!」

アクセルを踏む足に、ほんの少し力が入ったのは気のせいか。
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