秘め恋

 重症だよね。

 マサのために外した結婚指輪。仁を感じられる唯一のアイテム。指から離れた瞬間、心が軽くなった。一人思いつめるばかりだった結婚生活を一時的にでも忘れることができそうで。

 仁は今でも私を好きでいてくれるのかな。なんて、考えるまでもないよね。だって、仁は、恋愛感情優先で結婚したわけじゃないんだから……。

「背中、水着の下も塗るね」

 マサの声かけでアオイの思考は途切れた。

「うん、お願い」

 アオイはゆったり目を細めた。マサの指先がくすぐったいのにどこか気持ちいい。人に日焼け止めを塗ってもらうのはリラクゼーションサロンで全身マッサージを受けるのと同じくらい心地がいい。

 反面、今さらながらとんでもないことを頼んでしまったのではと思い始めた。いくら友達とはいえ男性相手にそんなことを頼むのは図々しすぎたのではないか、と。

 いくらマサでも、日焼け止め塗るなんてさすがに迷惑だったかな。頼んだ時も困った顔してたし……。太ももの裏くらいは自分で塗ろっと。塗りにくいけど。

 申し訳ないことを頼んだと思ってしまう理由はそれだけではない。肌に触れるマサの手のひらにどうしようもなくドキドキしてしまったからだ。

 心地いいのはもちろんだが、それを超えた感情を思い起こさせる。男性に肌を優しく触ってもらえる時に覚える気持ち良さ。この頃自分の生活から遠ざかっていた感覚。

 恥ずかしい話、背中だけでなく体中が熱を帯び、それが高じてマサの恋愛経験を想像するに至ってしまった。

 マサは今までの彼女にもこうやって触れてきたのかな。って、何でこんなこと考えちゃうかな。今の私絶対気持ち悪いよ……。

 それもこれも、仁と抱き合う機会がめっきり減ったからだろうか。それとも、心の欲求不満は体にまで影響する、そういうことか。

 旦那とのスキンシップに飢えているのは間違いなかった。
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