あの日みた月を君も
両親とともに時間がある限り働きながら、僕は大学に通った。

多治見 ソウスケ。

それが僕の名前だ。

どんなにつらくても、あの戦時中の暮らしと比べれば何でも堪えることができた。

僕は、大学で化学を専攻していた。

これからの日本を支える一番の近道の鍵は化学が握っていると信じていた。

「おい、お前就職決まったんだって?」

大学の図書館で本を読んでいたら、親友の山道マサキが僕の肩を叩いた。

マサキは僕の肩に手を置いたまま横の席にゆっくりと座る。

マサキとは大学1年の夏、バイト先で知り合った。

偶然同じ大学で、彼は文学部を専攻していた。

当時から新聞記者になって、世界を知り、この広い世界の実情を日本に知らしめるんだと意気込んでいた。

「ああ、俺の親父の知り合いが化学工場を立ち上げてね。俺が化学を専攻しているって言ったら是非来てくれってさ。」

「よかったじゃないか。化学工場って何作ってんだ?」

「プラスチックらしいよ。大手の企業から請け負ってるらしい。プラスチックは強固だし割れないし軽いし、これから日本でもますます需要があると思うんだ。」

「そうか、おもしろそうだな。お前のやりたかったことを実現する日が迫ってきたな。化学で日本を盛り上げていくんだろ?」

僕は「うん。」と頷くと、読みかけの本にしおりを挟んで机の上に置いた。






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