あの日みた月を君も
さすがにこの時間になると行き交う人もまばらだった。

ちょっとお茶でもって言いたかったけれど、当然喫茶店は閉まっている。

しょうがないので、公園までゆっくりと歩いた。

「その後どう?」

「何が?」

アユミは笑う。

「あのさ、こないだ言ってた話。」

「こないだ?」

「こないだっていうか、もう随分前だけど。」

アユミは顎に手をやって、斜め上を向いて考える仕草をした。

「ひょっとしてお見合いのこと?」

そのままの姿勢で僕に視線を向けた。

僕は少し気まづい気持ちになって、目をそらす。

「お見合いね。とりあえずしたわ。」

「どうだった?」

「私は全く結婚なんてしたいと思ってないし、お父様にもそう伝えたの。思い切って薬の研究をしたいから大学に残りたいってことも。」

「すごいな。」

まさか、そこまで自分の気持ちをはっきりと父親に言えるなんて驚きだった。

元々芯の強さは感じていたけど、父親という存在はやはり誰でも特別だと思っていたから。

とりわけアユミの父親はすごい人だったし。

「でも、険もほろろだったわ。女は結婚してなんぼだ!とかね。一喝されておしまい。」

「じゃ、結婚するんだ。」

アユミは黙っていた。
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