あの日みた月を君も
「大好きだよ。」

突然、ヒロの声が響く。

せっかく気持ちを落ち着けたところに、一気にその言葉は私の胸に飛び込んできた。

一瞬、セリフの続きだったってことを忘れそうになる。

「あ、すみません。・・・私も大好きだよ。」

あわてて返した。

担任はそんな棒読みの私に一瞬眉をひそめたけど、ここで時間くってたらなかなか終わらないと思ったのかそのままスルーした。

最後に主人公のセリフがあって、シナリオの読み合わせはそこで終了した。

「来週から撮影に入るから。俳優陣はセリフ覚えてくるように!」

担任は皆を頼もしげに見回しながら言った。

セリフは少ないから覚えられそうだ。

私は椅子から立ち上がり、自分の席に戻った。

後ろからカスミが肩を叩く。

「リョウ、めちゃ上手だったよ。それに、」

カスミは私の耳元で続けた。

「大山くん、最高にかっこいいよね!映画なんかやっちゃったら、高校にファンクラブできるんじゃないかな。既にねらってる女子が何人かいるらしいよ。」

「ふぅん。」

まぁね。

モテるだろうけど、彼は。

「そんな大山君に抱きしめられて、キスシーンまであるなんて、リョウが羨ましいな。」

「やっぱり代わろうか?」

そう言いながら、もう代わらなくてもいいって思っていた。

席につくと、隣のヒロも自分の席に座っていた。

ん?

なんだかおかしい。

今までこんなことなかったのに。

ヒロのいる隣の存在がやけに存在感を増してる。

自分の視線や動作がとてもぎこちなくなってる気がした。

私、ヒロのこと意識しすぎ

ヒロ側の体の半分がポカポカしていた。

あんなことで、私はヒロに恋しちゃった?

ちらっとヒロの横顔を盗み見る。

ヒロは、相変わらず平然と持って来ていた文庫本を広げて静かに読んでいた。



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