愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「ちょっと待ってよ。私の話を__」

私が言い返そうとしたとき、奏多さんが私の肩をポンと叩いた。自分にスマホを貸してほしいと、ジェスチャーで伝えてくる。

『遊ばれてるに決まってる!海斗くんに謝って、許してもらいなさい!うちとじゃ、あまりにも格差があるでしょ!困るわよ!』

私は奏多さんに首を振った。
大きな声がスマホから漏れている。
今奏多さんに代われば、興奮している母になにを言われるかわからない。
だが彼は、私の手からそっとスマホを取ると、冷静に電話に出た。

「お母さん。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。月島ホールディングスCEOの月島奏多と申します」

『はっ!?えっ!?嘘!本当に?本物?』

「本当です。この度は、誠に勝手なことをしてしまい、申し訳ございません。瑠衣さんを公の場に出させていただいたのは、立場上必要でしたので、取り急ぎ__」

奏多さんは母と話しながら、ひとり部屋を出ていこうとする。

「……ええ。そうです。……いえ、本当の話です。仰ることはごもっともですが」

気が気じゃない私は、彼についていこうとした。だが彼は私の動きを手の平で制し、そのまま部屋を出た。

ひとり取り残され、私は呆然とする。

小さな窓の外には、先ほど見た、月明かりに照らされている水面が揺れている。
窓際に立って、それを眺めた。

周囲の人々を欺き、こうして嘘を重ねるたびに、私たちの関係が深くなっていく。結婚に向けて、逃げ出せなくなってくる。
だがそれと同時に、心の距離は少しも縮まらないままなのが、次第に虚しく感じてくる。
ゴールのないゲームの勝者はいない。
海斗との婚約が解消され、奏多さんも親族に私を紹介した。あとは結婚して、別れのときを待つのみとなった。


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