愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
彼のためだと自分に言い聞かせ、姿を消した。あのときの私は、本当は自分に自信がなかっただけなのかもしれない。

彼ほどの人ならば、簡単にその地位を失ったりはしないだろうから。

夕陽が海に吸い込まれていくのを、ふたりで見つめる。

「瑠衣。偽装結婚なんて言い出して、本当にごめん。初めからきちんとプロポーズしたらよかった。君に一瞬で惹かれたからこそ、結婚しようと思ったのに。そしたら、君を苦しめずに済んだのに」

俯く奏多さんの顔に、夕陽が影をつくる。
そんな彼の頬にそっとキスをした。

「苦しんだからこそ、素直になれたの。それでよかったのよ」

私が言うと、彼はかすかに微笑んだ。

「そうかもな」
彼がそう言った瞬間、海の彼方に夕陽が消えた。
薄紫色の闇が、優しくふたりを包み始める。

「実は、瑠衣をここに連れてきた目的は、これからなんだ。そろそろ準備が進んでる。行こう」

立ち上がって彼が差し出した手を握り、私も立ち上がる。

これからなにが始まるのかはわからない。
だけどもう、すでに驚きの連続なのだから、これ以上のことなんかないだろう。
そのときの私は、そんなふうに考えていた。


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