愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
私はわざと、彼とは反対側の窓の外を見た。
これから奏多さんにからかわれながら、結婚生活を始めることと、海斗と一緒にいることに、そんなに違いがないような気がしてくる。

「かけひきやスパイスが欲しいのは、俺のほうだよ」

彼の言葉に、彼のほうを見た。

「君がかわいいと思ったのは本心だよ。誰とも付き合ったことがないと聞いて、嬉しかったのも本当。浮かれてしまってるのかもな。君を怒らせて、ガキみたいだ。ごめん」

そう言って困ったような顔で笑う彼が、なんだか急に、とてもかわいく思えた。

何万人もいるであろうグループ会社の社員たちの生活を支え、世界にその名を轟かせている月島ホールディングスの総帥でありながら、私のような末端従業員の機嫌を取ろうとする彼を。

「先ほどの話ですけど、ひとつ……付け足してもいいですか」

「え?」

「私は素直で純粋な上に、心も広いんです。幼なじみにバカにされて鍛えられてきましたから、たいていのことには耐えられると思います。さすがに人を見る目がありますね。偽装結婚なんて、私のような者にしかできないことです」

わざと自虐的に、一気に告げる。
こうなることを決めたのは私だ。
一瞬引け腰になった奏多さんに、海斗ととの関係を変えたいと強く訴えたのも私だ。

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