愛され婚～契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます～

『奏多さま。「プレミアムホテル月島」に到着いたしました』

車内スピーカーから運転手の声がした。
車はホテルの正面まで来ると、静かに止まった。

「最高の花嫁になってもらわないとね。ウェディングドレスは好きなものを自由に選んでいいから」

俺が言うと、瑠衣の目が不安そうに揺れる。

「結婚式なんてしなくてもいいと思うんです。一年で終わるのがわかっているのに。これは、奏多さんが海外に渡る前までの結婚なんですよね」

彼女の言葉に、なぜだか素直に頷けない。

「いずれ終わるものでも、式を挙げないわけにはいかない。周囲に偽物だと知られてしまう」

「そうか……そうですね……」

現実的になるにつれて、瑠衣は不安を感じてきているようだ。それも無理はないと思う。
勢いで決めた結婚だが、時間が経つにつれて、次第に冷静になってくるのは当たり前のことだ。
だが俺は、彼女と結婚することに対して、不思議と何一つ不安を感じてはいなかった。

運転手がドアを開けて待っているが、彼女は車を降りようとはしない。

「瑠衣が嫌なら、結婚を考え直せばいいよ。俺は君を苦しめてまで、利用するつもりなんてないから。幼なじみの彼のことが気になるなら、今すぐにやめてもいい。彼のところに戻るといいよ。そんなに悲しそうな顔をしないで」

彼女が急にかわいそうになり、思わず言っていた。

「奏多さん」

彼女は驚いた顔で俺を見る。
これは、お互いの苦境を変えるための計画だ。
俺にしかメリットがないのならば、瑠衣をこの状況から解放するのは当然のことだと思う。

「たとえ偽装でも、俺の隣に立ってくれる花嫁には笑っていてほしいと思うんだ。君がウェディングドレスを着て笑ってくれたらとても綺麗だろうけど、それを強要することはできないからね」

決して大げさに言ったわけではない。
花嫁姿の瑠衣が、俺に笑いかける姿を想像する。
偽装結婚であることはもちろんわかっているが、俺はその瞬間、きっと幸せな気持ちになるのだろうという確信があった。