愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「ありがとうございます。そうよね。あなたと海斗は違う。あなたはふたりの未来を変えるために、こうなることを望んだのだから」

彼女は自分に言い聞かせるように言った。
俺もそんな彼女に頷いた。
感情を隠さずにすべてをさらけ出す、彼女のような女性に出会ったのは初めてだ。
悲しそうな表情でいたかと思ったら、次の瞬間には自信に満ちた笑顔をみせる。
そんな彼女を見ているだけで楽しく、もっと笑顔が見たいと思えた。不思議な魅力のある女性だ。

「奏多さんの役に立てるように……自分の未来を切り開くために、頑張ります。あなたに出会えてよかった」

にっこりと笑うその顔を、本当に綺麗だと思う。
俺の言葉を素直に受け入れる君を、俺がもっと変えていきたい。
自信にあふれ、さらに輝きを増すように。

「後悔はさせないから。俺と結婚するからには、たとえ短期間でも幸せを感じてもらう。それぞれの未来を歩きだしたあとも、一生君の心から俺が消えないほどに、思いきり幸せにしてあげる。君が自信を持って、未来を歩けるようにね」

偽装結婚なんて、世間からは認められるはずがない。
だけど今のふたりにとっては、最良の方法だ。

一生独身を貫くつもりでいた俺にとって、瑠衣の存在はなくてはならないもの。周囲を納得させるためには、一度は結婚する必要がある。

俺が幼い頃から不仲だった父と母が、常に言い争う様子が、今も俺の記憶に強く残っている。
父が亡くなったときに泣き崩れる母の姿を、冷めた目で見ながら、彼女のその涙を信じられなかった。まるで周囲に対して、悲しみに暮れる妻の姿を演じているように感じ、とても白々しく思えたものだ。

俺の両親のように、互いを不幸にしてまで、世間体を重んじて結婚などしなくてもいい。
俺はそんなふうにしか考えられない自分が、家庭を持つことを極端に恐れているのだろう。それはわかっていた。

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