肖像画とノイズ(短編集)
階段
【階段】


 あるはずのない四階への階段を上ると、戻れなくなってしまうらしい。

 そんな噂を思い出したのは、夜中忘れ物を取りにやって来た学校で、あるはずのない四階への階段を見つけてしまったときだった。

 上ると戻れなくなるのなら、行かないほうが良いに決まっている。
 でもこのときの僕には、正しい判断ができなかった。部活で疲れていたし、夕飯もたらふく食べて、もう眠かったのだ。

 気付けばゆっくりと階段を上っていた。しぃんと静まりかえった校内に足音が響く。ひんやりとした空気が、眠さで火照った頬を撫で気持ちいい。

 ついに扉の前までやって来て、冷たいドアノブに手をかける。
 ぎぃぃと耳障りな音を出しながら開いた扉の向こうにあったもの。それは、……。

 きらびやかな照明に、きわどい恰好のダンサーたち。豪華な食事に、色鮮やかなスウィーツの数々。部屋の隅にはカラオケセットや、読みたかった漫画や小説、ドリンクバー。いくつかあるドアには「バスルーム」「寝室」「シアタールーム」のプレートがある。
 そして美女が僕に首にハワイアンレイをかける。
「ようこそ! どうぞごゆっくり!」

 なるほど、これはもう戻れないな。僕は豪華な食事に飛びついた。




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