アウト*サイダー
そこはやっぱり混み具合がひどく、面倒くさがった私を恨めしく思った。どの吊革も空いていない。扉と扉の間で支えもなく、おじさんの後頭部を睨み付ける。……おじさんは悪くないんだけども。
ため息するのも憚られる人の距離。パーソナルスペースなんてものが全く無視された空間。
電車の揺れでみんなが同じように揺れる。それはムー○ンに出てくる、あの白くニョロニョロと動く生き物みたいに。
そうか、私もあの白いのと同じように無心になればいいのだ。無心、無心、無心……無心。
無の境地の入り口を探していた、その時。電車が不意に大きく傾く。支えのない私の体も踏ん張れるほどの腹筋がないため、引っ張られるように傾いていく。
もはや踏ん張るだけ無駄だと、後ろの人にぶつかった時の謝り方をシミュレーションし始める頭。
足の指先が浮いて踵に重心がかかる。そうして、倒れそうになって……突然、腕を引かれた。
横の人垣から伸びてきた手。その手が引く方向に体が引き込まれて、人と人の間をするりと抜けた先で、私は誰かに抱き止められていた。