アウト*サイダー

 漫画に夢中な彼に背を向けて、結んだネクタイをほどき、もう一度結んでみる。

 んー、なかなか難しいものだな。あれ、どの輪っかに入れるんだっけ。こうかな。いや、もう一回輪をつくって?

「……違う。こうだよ」

 急に聞こえた声と、出てきた手。

「よく見てて」

 しゅるしゅると布が擦り合わさる音。手際よく作られる結び目。だけど、何よりも後ろから抱き締められているような体勢に緊張する。

「ほら、出来たよ、ハスミ」

 正面に回って座ったケイは、出来たそれを満足げに手に取って見下ろした。胸元にある手に心臓がざわめく。

「ハスミ?」

 顔を覗き込む彼と目が合う。どこまでも見透かされそうな目。キスだって、もう何度かしたのに、未だにこの距離の近さには慣れない。

「ち、近いよ、ケイ」

 堪えきれなくて少しだけ顔をずらす。けれど、それをケイは許してくれない。ネクタイを引っ張って、その反対の手で顎を掴むと私の顔を自分の方へ向けさせる。

「何、その顔。そんな可愛い顔しちゃ駄目だよ。俺、今日はすごくイイ人になりきるつもりでここに来たんだから」

「イイ人?」

 お父さんとお母さんの前で笑っていたみたいな?

 少なくとも今は違う。優しく私を見つめる時とも違う、ちょっと怖い目をしている。

「言っただろう? 俺はハスミを泣かしたいんだ。最低だよね。こんなこと望んでいる奴だなんてハスミのご両親に知られたら……俺はハスミの側に居られない」
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