悪魔の囁きは溺愛の始まり
すぐに波羽にも連絡をすれば、やっぱり呆れながらも了承してくれた。

大きく深呼吸をして資料室を出た。


「わっ。」


驚きに変な声が漏れた。

資料室の前の廊下に、渡部さんが壁に凭れて立っていたからだ。


「青山、資料は纏めれたのか?」

「はい。」


平常心、平常心……心の中で呟く。


「送っていく。」

「いえ、大丈夫です。そんなに遅くないですし。」

「送っていく。」


渡部さんは無表情のまま、私に背を向けて歩き出した。

いつもとは違いすぎる雰囲気を漂わせ、有無を言わせない渡部さんに反論を止めた。

荷物を片付けてオフィスを後にした。

無言の渡部さんに、普段では感じない居心地の悪さが私達を包んでいた。

会社の外に出れば―――私を待ち伏せする人物がいた。

蒼大さんと目が合い足を止めた。

徐々に近づいてくるが、その場から動けないでいた。

なぜなら……

私を突き刺すような鋭い視線を向けていたからだ。
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