悪魔の囁きは溺愛の始まり
彼らは彼女達との会話に夢中のようだった。

まったく気づかれる様子もなく、私達はコンドミニアムへと戻ってきた。

琴音の愚痴は止まらなかったが、私も愚痴りたい気分だ。


『初めて一目惚れした。』


甘い囁きも全部彼にとってはナンパの甘い言葉だったんだと。

腹が凄く立ってきた。


「音、波、やっぱり『ひとときの恋』なんて無理だよ。夢みたいな恋は現実にはないんだよ。」

「珍しい。花が男の愚痴を溢すなんて。」

「まさか花も嵌まってた?蒼大さん、モテそうだし、優しい感じだったしね。」


私は部屋着を手に持つとシャワールームへ向かった。


「お先に浴びるね。」


二人のクスクスと笑う声を無視してシャワールームへ入った。

頭からシャワーを浴びて、頭の中から蒼大さんを追い出そうとした。

甘い囁き、繋いだ手の温もり、私だけを好きかのような行動、全てがムカついてきた。


「ムカつく。やっぱり女好きのナンパ野郎なんだ。」


蒼大さんの行動に不覚にも恋に堕ちるような錯覚に陥っていた自分に腹が立った。

あんな男は忘れよう。

バカンスでの甘い言葉を絶対に信じたりしない。

私達がいるのに、他の女をナンパする彼らにプライドを傷つけられた気がしていた。
< 31 / 200 >

この作品をシェア

pagetop