悪魔の囁きは溺愛の始まり
ベッドから下りようとしたが、蒼大さんに腕を掴まれた。


「一花、まだ早い。」

「うん、でも化粧を落としたいし、シャワーも浴びたい。バスルームを借りたいけどいい?」

「部屋を出て反対側のドア。バスタオルは置いてあるから。」

「うん、ありがとう。」


鞄から着替えを取り出してバスルームへ向かった。洗面所の鏡に映る私が目に入る。


「最悪だ。」


化粧も落とさずに寝てしまった私の顔は酷い。まだ暑い季節もあり崩れも酷い。

シャワーを浴びれば、さっぱりと気持ちよくなった。髪を拭きながら洗面所を出た。


「きゃっ。」


蒼大さんが洗面所の前の廊下の壁に凭れ掛かっていた。まさか立っているとは思わずに驚いて変な声が出てしまった。

蒼大さんが近づいて来たと思ったら、私を包み込むように抱き締めた。

あまりの驚きに動けないでいた。


「悪い、また目の前から消えるんじゃないかと…………心配だった。」


切ない蒼大さんの声に胸が締め付けられた。

私の過去の行動がこんなにも蒼大さんを苦しめていたなんて。
< 86 / 200 >

この作品をシェア

pagetop