お見合い結婚時々妄想
慎一郎さんの出席するパーティーに同伴すると決めてから、私はその準備に明け暮れた
取引先の会社は、アメリカに本社があるインテリア専門店のDインテリアという会社で、ここ何年間で人気の商品を次々と発売してしる会社だ
英会話はもちろん、相手先の会社のこと、新しい支社長のこと、その他の出席者のこと、色々調べて頭に叩き込んだ
分からない事は、慎一郎さんが教えてくれた
そこまでしなくてもいいのかとも思う
私はF社の社員でもなんでもないから
でも……


「そんなに根を詰めなくてもいいよ」
「でも慎一郎さんの顔に泥を塗りたくないから」
「祥子のせいで、僕がどうこうなることはないよ?」
「とことんやるって決めたから。大丈夫だよ」


そんなやり取りを幾度となく繰り返し、とうとうパーティー当日となった
パーティー会場になっているホテルに着いてロビーに入ると、先に来ていた慎一郎さんが待っていてくれた


「祥子、待ってたよ。本当に今日はありがとう。緊張してる?」
「うん。出来れば今すぐ帰りたい」
「ごめんね。でも……」


じっと見つめる慎一郎さんに、何?と首をかしげた


「今日の祥子はとっても綺麗だから、すぐに帰るのももったいないね。このドレス、やっぱり似合ってる」



今日着ているドレスは、慎一郎さんが選んで買ってもらったものだ


「頑張っている祥子にせめてものご褒美だから」

と、真剣に選んでくれた
ポートネックの膝下のフレアのワンピース
ウエストの前の部分にはには大きなリボンで絞っているようなデザイン
色は、パステルカラーのピンクをちょっと濃くしたような色だ
三十路を過ぎてこんな可愛らしい色は……と躊躇っていたけど


「祥子は色白だから、この色がいい」


と慎一郎さんが断固として譲らず、このドレスを買ったのだ


「本当に?若作りしてない?」
「全然。可愛いよ、祥子」


そして、にっこり笑顔
もう……その笑顔は反則だよ、慎一郎さん
会場に向かっている途中、後ろから「皆川部長」と声を掛けられた
振り返ると、爽やかなイケメンが近づいてきた


「うわぁ、絵に書いたような爽やかなイケメンだわ」


思わず口に出してしまったらしく、慎一郎さんが眉を寄せたのは気付かなかった


「部長、奥さん到着したんですね……って、なんて顔してるんですか?」
「何でもない。祥子、これ部下兼秘書の相川。相川、この人が妻の祥子」
「ひどっ!これってなんですか!これって!」
「……さっさと挨拶しろよ」


私が唖然としていると、相川さんは憮然としながらも私に笑顔を向けてくれた


「はじめまして、海外事業部第1課と、つい先日部長のごり押しで部長秘書兼務になった、相川健次です」


丁寧に名刺を渡された。ごり押しでと言ったところは、多少とげがあったけど……


「はじめまして、皆川祥子です。夫の秘書もやられてるなんて、相川さんもお忙しいんじゃないですか?」
「ええ、部長は人使いが粗いですから」
「……おい、相川。余計なこと言うな」
「これ呼わばりされた仕返しですよ」
「何だって?」


2人のやり取りを見ていると、思わず吹き出してしまい、視線を集めてしまった


「上司と部下という関係だけど、仲がいいんですね。相川さん、これからも主人をよろしくお願いします」


と、頭を下げた
相川さんは慌てた様子で狼狽えていた
私は慎一郎さんに向きなおして言った


「慎一郎さんも、相川さんをあんまりこき使っちゃだめですよ?」
「……分かった」


慎一郎さんは不機嫌そうに返事をしてくれた
その様子を見ていた相川さんは目を丸くしてびっくりしていたけど、我にかえって


「今日はずっと、お2人と一緒に行動しますので。もし、部長が祥子さんから離れることがあっても、僕は祥子さんに付いてますから、安心してください」


相川さんの言葉を聞いてホッとした


「よかったです。1人になることもあるだろうなと思ってましたので、安心しました。よろしくお願いします」


私の安心した顔を見て、相川さんはにっこり笑った


「……人の妻に色目を使うな」
「使ってないですから。部長いい加減にしてくださいよ。全く面倒くさい……」


2人のやり取りを見て、また吹き出してしまった
なんか今日の慎一郎さん子供っぼいな……
そんなことを思いながら、少し緊張がほぐれた私は、慎一郎さんの左腕に自分の右手を添えて、慎一郎さんを見上げた


「頼りにしてますからね。慎一郎さん」


慎一郎さんは満面の笑みで応えてくれた
その後ろで相川さんが勘弁してくれよと思いながら、ため息をついていたなんて、全然気付かなかったけど

パーティー会場に入ると、そこは別世界だった
こんなのテレビでしか見たことないよ〜と、トリップしそうな自分を諫めつつ、慎一郎さんと会場内を進んで行った
慎一郎さんを見るや否や、たくさんの人達が慎一郎さんに話しかけてくる
その度に慎一郎さんが


「妻です」


と紹介してくれて、私もなんとか笑顔を作って、挨拶した
事前に頭に叩き込んだ成果が出たのか、間違えることなく対応できたし、ちょっと私が不安そうにしていると、慎一郎さんや相川さんがさりげなくフォローしてくれた
そして、一段落したと思ったら、遠くから「シンイチロ〜」と聞こえてきた
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