お見合い結婚時々妄想
そう聞かれた慎一郎さんは、一瞬びっくりしたけど、すぐに優しい笑顔


「どうして、そんなこと聞くの?」
「だって……私お見合いの席でもトリップしましたよ?」
「うん、そうだったね」


そう言って、思い出し笑い


「しかも、そんなに美人でもないし、スタイルもよくないです。」
「そうかな?」
「そうですよ。だから、慎一郎さんに『また会ってくれませんか?』って言われたとき、本当にびっくりしましたもん」


そうだったんだねと言って、慎一郎さんは両手で私の手を優しく包んだ


「じゃ、僕が教えたら祥子も教えてくれる?どうして僕と結婚しようと思ったのかを」
「……はい」

何を言われるのかちょっと恐くて、俯いた


「一目惚れだよ」
「……はい?」
「だから一目惚れ」
「一目惚れ?」
「そう」
「誰が?」
「僕が」
「誰に?」
「祥子以外に誰がいるの?」
「いや、だって、私……」
「うん、トリップしてたね」
「そう!なのに!」
「はい、もういいから落ち着いて。ちゃんと話すから」


アワアワしてる私の頭をなでて、にっこり笑顔


「お見合いのとき、スイーツ食べながらトリップしてた祥子を見て、一目惚れしたんだよ」


トリップしてるの見てって……
そこは引いてしまうところだと思うのですが、慎一郎さん

「百面相がよかったんですか?」
「うん」
「どこが?」
「う~ん……どこがと言われてもなぁ……理屈じゃないから。祥子を好きになったのは」
「理屈じゃ、ない?」


慎一郎さんは右手で私の頬を包んだ


「これから一生、祥子がトリップした後、いつも『お帰り』って言ってあげたい。ただそれだけだよ。」


そして、一瞬唇に降りてくる慎一郎さんの唇


「これが僕の答え。納得した?」
「納得できたような、出来ないような……でも、なんか……」
「ん?」
「なんか、心がほっこりしたので、いいことにします」


そして、お互い笑い合う


「じゃ次は祥子の番。どうして僕と結婚しようと思ったの?式でまともに会えてなかったし、愛想をつかれたらどうしようかと、気が気じゃなかったんだから。仕事中にイライラして、部下には面白がられるし……」


へえ、なんか意外だ
慎一郎さんにもそんな一面もあるんだな
部下に面白がられる慎一郎さん……


「祥子、お願いだから。今はトリップしないでくれる?それに早く理由を言ってくれないと、どうにかなりそうだ」
「ご、ごめんなさい。私が結婚した理由は……」


慎一郎さんが食い入るように私の言葉を待ってる


「慎一郎さんが『お帰り』って言ってくれたから」
「え?」
「そんなこと言ってくれたの、慎一郎さんが初めてだったの」
「うん」
「すっごく、ほっこりしたの」
「そう」
「だから……」
「だから?」
「私が慎一郎さんを、ほっこりできたらなあって思ったの」
「……祥子」


慎一郎さんは優しく抱きしめて、キスをした
そのまま、お互いに言葉もないまま、愛し合った


お互い理由らしい理由なんてない
なんだかそれが私達らしくて、幸せだなぁと思った
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