『来年の今日、同じ時間に、この場所で』

その先にあるもの

「なにそれ?昼ドラじゃないんだから!」

「昼ドラって…」

「だって、平日しか逢えないなんて愛人じゃないんだから、可笑しいでしょ!」

「土日は接待とかで忙しいんじゃない?」

「それに指輪だって外さないんでしょ?」

「もしかしたら、抜けなくなってるのかも」

千秋は、ようやく首がすわってきた赤ん坊を寝かしつけながら私の言うことを全て否定した。



私だって薄々は気付いてる。

あのキスの日から
平日の夜は私に時間をくれるけど
土日には何をしてるのかすら知らない。

私といる時でも決して外さない
左手に光るシルバーリング。

私の家には来るけど
ベンの家は、どこにあるかすら知らない。

ベンの携帯を、たまに鳴らす
「花音」という名前。

療養所にいた彼女はどうしたのか。

どれもこれもポジティブに考えて
可笑しいことなんてひとつもないって…

そう思うようにしてきた。

そして なにより1番気になるのは…
私達はつきあってるのだろうか。

この歳になると、学生の時とは違って
「付き合って」とか言わないものなの?
お互いが想い合えば付き合うってことなの?



お互い想い合う?


そういえば「すき」
って言われたことないや…


じゃあ、どうしたらお互い想い合ってるって
わかるの?


週の半分以上は、当たり前に逢って。
2人の時間はお互い笑い合って。
黙っていても居心地がよくて。


これって…


「友達と変わらないじゃん。」


千秋のひと言にグサッと傷付いた。
だんだんと否定されすぎて
私なりの思考の着地点も「友達」にたどり着いていた。


あれから3ヶ月。キスすらしてない…

でも、あの日の2回のキスは
間違えなく「すき」の証明だったよね?


空白の10年から、
毎日逢える日々が嬉しくて

また逢えなくなるのが嫌で…
何も聞かないでいた。


わかったフリをするのは簡単で
何かを明らかにするのがこんなにも難しい事だったなんて…

小さい頃は、知ったかぶりをする方が
難しかったはずなのにね。



「もう一度逢いたい」からはじまり
一度逢えば、また逢いたくて
明日も明後日もベンの時間が欲しくなって

どんどん、欲張りになっていく。




不透明だけど幸せな毎日が続いて…
壊れないように、壊さないようにしてきた
大切な日々。

恋人達が騒がしくなる年に一度のクリスマス

あなたは誰と過ごすのかな?


街を歩く人達のカラーも暖色に変わり
だんだんと寒くなってくる頃

私はそんなことばかり考えてしまうようになっていった。


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