ウソつきオオカミくんのお気に入り

・リンゴちゃんと素直な気持ち




雄也と会ってから、何時間が経過したんだろう。あの後、雄也がわたしに近づいてきたとき。

咄嗟に胸を押した。キス、されると思ったから。


『……ごめん』

『ううん、私こそ……』


ばつが悪そうな顔をして、深々と頭を下げる雄也を見て、悪気がないってことは痛いほどわかった。でも同時に気づいてしまったの。

やっぱり、キスって好きな人じゃないとできないよ。もちろん、その先だって。

郁也が好きだから、キスされても許せたんだって。触れられても怖くなかったんだって。


送っていくって言う雄也を押し切って、ひとりで家に帰ってきてから。ずっと自分の部屋に篭って考えていたけど……私の選択は間違ってないよね。


『ごめん、雄也。わたし、郁也が好きなの』


あの時、最後に私が言った言葉。雄也は無理に笑ってた。


『じゃあ最後に、お節介させてよ』


そう言いながら帰って行った。お節介って何のことなのかわからないけど、傷ついた顔をするから何も言えなくて。

ホントは、笑えるはずないよね。

うちは両働で夜勤族だ。今日はお母さんもお父さんもいないらしい。こういう時に誰かと話していた方が気がまぎれるのに、家でひとりなんて余計にいろんなことを考えてしまう。


好きなのに手放してしまった、好きだから、手放さなきゃいけなかったのかな。

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