内実コンブリオ
夏休みはじめての部活行事、写生大会。

あぁ、深緑の海、青い空、広い浜に豪快な漁船たち。

いいわね。まさに漁港って感じ。

しかし、何より先輩方の絵は素晴らしい!

まるで一枚の写真の様。

でも、それだけじゃなく、水彩独特の温かさがある。

この絵たちに比べてしまうと、自分の絵なんて、ただの落書き…。

でも、先生はおっしゃってくださった。



『絵に上手い、下手は無い。その人の感性であるから』



うん、名言だわ。素敵!

先生の言葉を胸に自分も頑張ります!



「華ちゃんは、何を描いとんの?」

「ひぃっ…!」



気を入れ直した時だった。



「そんな驚かんといてよ。傷つくわー」

「すいません。だって…」



後ろから自分の絵を覗き込んできたのは、涼先輩。

涼先輩は、自分より1つ上で、小学校から同じ。

昔から絵も上手で、よく描いてもらったりしていた。

実は昔、密かに好きだった人なのよね。



「だって…何なん?」



少し口角を上げぎみに、意地悪そうな顔でさらに迫ってくる。



「だ、だって…、こんな恥ずかしい絵、見られるの嫌です…」

「なんで嫌なん?」

「は、恥ずかしいからです…」

「どう恥ずかしいの?」

「ど、どうって…」

「はぁーいっ!華ちゃん、いじめるなっ、涼っ!!」

「いじめてませんよ。ふっつーーーうに会話してただけですよ。
な、華ちゃん?」

「う…はい…」



涼先輩のさらに一つ上の女の先輩が、仲裁に入る。

別に争っているわけではないのだが、恥ずかしさのあまりよほど自分が怯えている様に見えたらしい。



「涼、あんたは作品仕上がったんかいな!」

「すいません。まだですけど」

「えらっそうに!はよ仕上げぇ?!もうちょいしたら先生、アイス持って来るで!」

「あ、アイス!そうでしたね。持ち場戻ろ」

「そやで!真剣にせな、先生、アイスくれやんかもしれやんで!」

「はいはーい。すいませーん。アイス、アイスー」


アイス、アイスと何度も連呼して去っていく涼先輩に自分は、見とれていた。

やっぱりかっこいいなぁ…。

私の中でやはり好きという名残は消えていないみたい。
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