次期王の行方 ~真面目文官は押しに弱い?~
「こんな所で何していらっしゃるんですか?」
 扉の大きく開かれた建物の中で目的の人物を見つけたクーデノムは呆れた声を背後からかけた。
「おぉ、クーデノムじゃないか」
「貴方は今日は書類に総て目を通して決裁しているはずではなかったのですか? こんな所で遊んでいる時間などない量を今朝、お渡ししたはずなんですけど」
 クーデノムの怒りなど素知らぬ顔で楽しんでいるのはクスイ国王だ。
 国営の賭博場。王が来るのを職員も慣れているのか、苦笑しながら二人の様子を伺っている。
「まぁまぁ、一応ダーッとは目は通したよ」
「放ってきた事には変わりないでしょ!?」
 彼の言葉に肩をすくめた国王だが、全然懲りた気配は見せない。
「はっはっは、ところでクーデノム、次はどれが来ると思うかね」
リスのような小動物の入った囲いの前で掲示板を見上げ悩んでいる。
 数匹を一斉に放って速さを競わせるゲームだ。
 本日の今までの結果も比較されるように貼りだされている。
『3―4が調子いいみたいですね」
「一番人気の連立だな」
 クーデノムと一緒に来ていたマキセが掲示板を見ながら言った言葉に国王も肯く。
 しかし、少し考え込んでいたクーデノムは別の番号を口にした。
「……2―4ですね」
「ほぅ……2―4か。当たったら仕事に戻ることにしよう。じゃ、2―4に1000ルート」
「は、はい」
 楽しそうに言い放つ国王の番号と掛け金をゲームの担当の者が慌てて紙に書き記した。
 1000ルートの言葉に周囲の客も興味深そうに寄ってきた。
 1000ルート…一般の労働者の年収くらいの金額だ。
「なんで2―4なんだ?」
 マキセがこそっとクーデノムに小声で話しかける。
「あの動物の生態ですよ。起きていても1日の活動期は数時間だけ。午前中に調子が良かったものはもう動かなくなります。だから調子の出てきた2番と4番がいいんですよ」
 スタートしたゲームは、彼の予想通りに終わった。
「1位2番、2位4番です!」
「おぉ、当たったぞ」
 担当者の声に周囲の者も歓声を上げる。
「配当金、3.5倍です」
「3500ルートか、そんなもんだな。クーデノム、ここに今日稼いだ5000ルートがある。これも予算に組み込んで検討してみてくれ。補充員の一人や二人は雇えるだろう」
「……国家予算を王自ら賭博で稼がないで下さい!」
「元金は俺のポケットマネーだ。寄付だよ、寄付」
 今朝に渡した書類の内容は、各地域から要望してきた公共事業の計画表。
 至急の取り決めが必要なものは既にクーデノムが抜粋して問題点等を指摘してあとは王の判断と決裁のみ、と言う所まで書類を揃えていたのだ。
 王はちゃんと目を通して覚えていたらしい。
 さぁ帰るぞと腰をあげた王は満面の笑みを浮かべて上機嫌だ。
「あはははは、さすが王だなぁ」
 マキセは大笑いしながらため息をついた親友の肩を叩くと、王の後をついて帰ろうと促した。
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