マリンシュガーブルー

厨房で調理に忙しい弟は接客ができない状態。こんな時、姉の美鈴がフロアに対して全ての責任を持つようになる。弟に信頼されて任されているから、きちんとしたい。

「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」

いつもの笑顔で対応する。
男が黙って、店内を見渡す。繁盛していると言っても、空席はいつもあり満席なることはなく、彼も空いている二人用テーブルへと向かっていく。

いつものお水のコップを準備して、美鈴は彼のところへ向かう。
すでにメニューを開いている彼の前へ、そっとお水のコップを置いた。

「ご注文決まりましたらお呼びください」
「手鞠寿司ランチでお願いします」

メニューがすぐ決まるのもいつものこと。美鈴が来たらもう頼めるように選び終えている。
渋くて低い声。とても落ち着いた大人の男の声だった。それだけ聞けば、美鈴もうっとりしてしまう。ただし目をつむっていればの話。

「サラダバーのセットはいかがいたしますか」
「セットで、いつも通りでお願いします。食後は……、本日はアイスコーヒーで」
「かしこまりました。暑くなりましたものね」

思わず、いつもの調子で気軽にお客様に声をかけてしまった。
ただこの厳つい彼には警戒をしていて、余計なことは言わないと決めていた。なのに、ついうっかり!
だからなのか、座っているそこから彼が珍しく、エプロン姿の美鈴を見上げた。

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