マリンシュガーブルー
 こうして若くても、三人で力を合わせていけばなんとかなるね。盆棚の位牌に手を合わせ、弟夫妻とそう話す。

 やはり、彼は来ない。もう夏も終わろうとしている。夜風が少し涼しくなって、でも潮の匂いも変わらないし、美鈴は彼のジャケットの匂いも、肌の匂いも覚えている。吐息の熱さも、彼が肩に飼っている寅の目も。まだ鮮烈に……。

 オレンジティーがお供のレジ締めをしていると、コックコート姿の弟がひと息ついてキッチンから出てきた。

「なあ、もう忘れられそうか」
「え?」
「ほら、あの人のことだよ」

 なにも聞かなかった弟が初めて、彼のことに触れてきた。

「だって。もう二ヶ月ぐらい? 経ちそうなのに、来ないんだろ」

 美鈴は素直に頷く……。

「莉子がなんか言ったみたいだけどよ。正直、俺はほっとしている」

 夫と妻の間でも、姉ちゃんの恋についていろいろ話していたようだった。莉子が『会いに来たらついていっちゃいなよ』と言ってくれたこと、弟にもそうしてあげて欲しいと彼女はお願いしていそうだった。

「もし。あの人が会いに来ても、姉ちゃんがどうしてもついて行くというなら、俺達とは縁を切ってくれ。子供も生まれるし、反社会的な親戚はいらない」
「わかってる」
「莉子が、……その、姉ちゃんの身体……、女として、その、なにも起きなかったみたいだと教えてくれたんだけど、……そっちも安心したというか」

 先月、無事に生理が来たことを言っているのだと思った。姉弟だからって、異性としてのデリケートな部分に触れるのはタブーであって、むしろ『生理』なんて平気で話せるのは義妹の莉子のほう。
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