マリンシュガーブルー
「でも、八年も……、馴染めなかったのですか?」
「正気のままでいる男が必要だと言われました」

 荒っぽい男と男が対峙する世界で、正気でいられる男。そう聞くと、美鈴も良くわかる気がした。店で銃撃があった夜、どの男の中でも、確かに彼だけが冷静で落ち着いていたし、スマートだった気がする。

「それで異動ということですが、今度はどちらに」
「三課です。盗犯を扱う部署に九月に異動になります。四課から異動したいと何度も異動願いを出していたのですが、やっとですよ」

 美鈴ではなく、彼が心底ほっとしたと嬉しそうに笑う。

「そうでしたか……」

 何故か美鈴は喜べなかった。そんな美鈴を見て目の前に座っていた尊が立ち上がる。そして美鈴の隣の椅子に静かに座った。

「すみません。あなたに、あの時は言えなかったんです。仕事用のガラケーの携帯電話しか持っていませんでした。なにかがあって向こうの男達に捕らわれた時に素性を知られないためです。あなたの番号を記録してしまうと、なんのために記録したものか報告が必要になりますし、暴力団の男達の手に万が一渡ってしまうことがあると、本当に危険なターゲットにされる可能性も。ですから教えられず、聞けずだったのです。それに捜査上で出会った女性と連絡先をかわしたなどあってはいけないことだったのです。ほんとうは関係を持ってもいけないはずだったんです」

 それを聞いて、美鈴は隣に来た彼を見上げる。
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