マリンシュガーブルー
「あなたが待っている家に帰りたい。だめですか。ヤクザでなくとも、なにがあるかわからない仕事です」

 今度は彼がうつむいている。膝の上で握っている拳がさらにぎゅっと力が入ったのを美鈴は見てしまう。
 兄は怖いのですよ。好きになった女性を巻き込むことも、嫌われることも。彼の妹の言葉が蘇る。

「尊さん、そちらへ行ってもいいですか」

 今度は美鈴が立ち上がる。隣に座っている彼の目の前に立つ。

「美鈴さん?」

 目の前に立った美鈴は、彼の膝の上に座ってしまう。自分より大きな身体の彼がビクッとしたのがわかる。
 そのまま美鈴は彼の膝の上に柔らかに横座りになり、そっと彼の首に抱きついた。
 そして泣いた。熱い涙が、彼の皮膚の熱さを感じただけで溢れてきてしまった。

「お帰りなさい」

 彼の青いシャツの胸にもたれかかった。もう力が抜けてしまい、くったりと寄りかかってしまう。
 これが美鈴の返事。あなたがどんな人でも、もう愛している。私、待っている、あなたの帰りを……。
 彼も泣きそうになっている。厳つい彼が優しい顔になる。

「ただいま、美鈴さん」

 そんな美鈴を彼がぎゅっと抱き寄せてくれ、黒髪にキスをしてくれた。

「よかった、あなたのところに帰ってこられた」

 港で別れた朝、あなたが『いってらっしゃい』と見送ってくれたのがずっとずっと心に映っていたよ――、耳元で囁かれる。
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