気高き国王の過保護な愛執
双方が通訳を求め、フレデリカを見る。


「ぼくにできることがあるなら」

「そうかい、そうかい、いやありがてえ」


空気というのは奇妙なもので、通じていないはずの会話が成立している。

リノは「手が入用になったら呼びに来る」と約束し、大喜びで行ってしまった。

フレデリカはじろっと横を睨んだ。


「そういえば心配することはないんだったわ。傷が開いたら、お父様が縫ってくれるもの。麻酔はもったいないから使わないと思うけど」

「無理をしなきゃいいんだろ」


オットーの無骨な治療を想像したのか、ルビオがぎくっと顔をこわばらせ、それでも強情に言い張る。


「あなた、死にかけてたのよ?」

「でも生きてる」

「自分がどこの誰かもわからないのよ?」

「身元を証明できない者は、祭壇作りを手伝っちゃいけない決まりか?」

「屁理屈をこねないでよ」

「こねてるのはそっちだ。ぼくは自分がどこの誰か思い出すまで、じっとしていなきゃいけないのか。そんなことを強いる権利がリッカにあるのか」

「心配してるの」

「過保護だと言ってる」


ふたりはにらみ合い、すぐにぷっと笑い出した。

ふと、ルビオが片手をフレデリカに伸ばした。毎日の畑仕事と質素な石けんのおかげで、すっかり輝きを失った指先が、彼女の肩に触れた。


「どうしたんだい、これ」

「あ」


開いた襟から、内出血が見えていたのだ。あの日ルビオがつけた噛み痕だ。誰が見ても歯型とわかり、最初は赤かったのが、今では青と黄色に変色している。
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