気高き国王の過保護な愛執
なるほど。

ルビオがどこへ行くにも遠回りを選び、なるべく城内を歩き回るように心掛けていたのは、習い性だったわけだ。

イレーネがはいずって移動し、縛られた脚で、鉄の扉をガンガンと蹴った。音は鈍く、扉の向こうに空間を感じない。


「あの偽クラウス。閉じ込めてから塗り固めたわね」

「イレーネ様、クラウス様が別人というのは、確かですか?」


暗闇の中で王女がうなずいたのが、なんとなくわかる。


「確かよ。あれはクラウスなんかじゃない。なりすましているほかの誰かよ」

「そんな…」

「しかも、気づかれたとみるや、こんなことをするほど気が立ってる。兄さまが危ないわ」


フレデリカもまったく同感だった。

イレーネの指摘など、とぼけてみせたってよかったはずなのだ。しかし彼はその場でイレーネとフレデリカを昏倒させ、ここへ隠した。

なりふり構っていられないほどなにかに追い詰められているのか、もしくは…。

多少荒っぽい手段に出ても平気だと、なんらかの勝利を、確信しているか。


「頭が重いわ」

「空気が薄いのです。水もありませんから、あまり動かずに」

「このままここにいたら死ぬじゃない」

「困りましたね」


フレデリカは、イレーネより知識があり、医師だった父のそばで人の死にも病にも触れてきたので、その恐怖がすでに実感として手の中にあった。

だがイレーネは、クラウスへの怒りと、不本意な扱いへの腹立たしさで、絶望とそこへ続く道の恐ろしさに気づいていない。

このまま気づかせずにいるのが、今の自分の役目だとフレデリカは決心した。

イレーネの心と身体を、守ってやれるのはガヴァネスである自分だけ。


「もし眠れるようでしたら、お休みください」

「手足さえ自由になればなあ」
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