気高き国王の過保護な愛執
「だが私は迷わなかった。親友の望みは叶えてやりたい。機はすぐにやってきました。ある夜、私はおふたりに葡萄酒を持っていく役目を仰せつかりました。毒見を終え、供されるだけとなったグラスは私の目の前にありました」


耳をふさいだ。

もうなにが真実で、なにが嘘なのかわからない。どこまでが本当の記憶で、どこからが自分が勝手に作り出してしまったものなのかわからない。


「あなたが城にいない日でした。それも好都合でした。あなたが疑われずに済みますし、罪悪感も減るでしょう。しかしあなたは運悪く、公務を早めに終えて戻ってきた。そして葡萄酒の件を聞きつけ、悪趣味なことに、私がきちんと実行するかを、確認しに来た」

「嘘だ…」

「そして突然、自分のしようとしていたことが恐ろしくなったのでしょう。護衛を呼び、私が王と王子の暗殺を企てていると告げた」


足元がぐらついた。そうかもしれない。

だからクラウスが瓶を持っていたという、あの一瞬しか思い出せなかったのだ。

思い出さないようにしていたのだ。醜い自分を、都合よく封じ込めるために。


「護衛もバカではなかった。あなたの言動がおかしいことにすぐ気づきました。あなたは分が悪いと見て、護衛を斬って逃げた。矢を射かけられたのはこのときです。あなたは夜の王城をひたすら逃げ──」


言い聞かせるように、クラウスが微笑む。


「自分の罪をすっかり忘れて戻ってきた」


顔色が悪いですよ、とクラウスは眉をひそめた。案じるように頬に差し伸べられた手を、顔を振って払いのける。


「結果よければ、ではないですか。今やあなたは、念願の王だ」

「おれは…そんなこと、考えたこともない」

「"こともない"!」


揶揄され、ルビオは子供のように傷ついた。息を整えようとしても、身体がこわばってうまくいかない。肩を上下させ、喘いだ。


「私に罪を着せようとしたことなら、水に流しますよ、長いつきあいだ」

「おれじゃない」

「自分でも信じていないことを、私に信じさせようとしないでください」
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