秘密の携帯電話
side:旭川 雪菜
仕事中は必要最小限でしか手に取ることがない携帯電話。
最近ではガラケーと呼ばれている携帯電話を使用している人が減り、
パソコンの様な使い方ができるスマートフォンタイプを持つ人が増えている。
通話とメール機能だけあればいいと思っている旭川 雪菜(あさひかわ ゆきな)は
スマホに変える予定もなく、
未だに二つ折りの薄型携帯電話を今も愛用している。

「お疲れさま~」

仕事が終了し、足速に廊下に出ればすれ違う社員に声を掛け合った。
部署は違えど同じフロアで顔を合わすことが多いから比較的皆仲が良い。

「あ~…最悪…」

駅に着いてから気づいた忘れ物にため息が漏れた。
引き返すには中途半端な距離、少し悩むがやはりこの時代に携帯電話はライフライン。
特に連絡が入るわけではないが、何か緊急だったり、
すぐに連絡を取れる方がいい。
一息ついて、踵を返し、重い足取りで来た道を戻った。

基本的に残業の少ない部署だからか、就業時間後は節電の為、
明るく人通りのある廊下と打って変わって部屋の中は薄暗くどこまでも不気味に感じる。
ゆっくり歩いてた足を少し早めて、真っ直ぐに自分の席に向かった。

早く携帯電話を取らなければ…
そんな気持ちが大きくなるのは、ただの待ち受けならまだしも、
ふざけて設定した写真をうっかりそのままにしていた事を思い出したからだ。

今までの待ち受けは無機質に日付と時刻だけが表示されたシンプルなものだったが、今はさすがに困る。
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