元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
勝手に業務モードが解除され、
勝手に恋愛モードに切り替わる。

……だって、
出海君の寝顔が、
ものすごく色っぽいんだもの。

長い睫毛。
無防備な口元。

見なければよかった、これ以上見ない方がいいという気持ちと、もっと見ていたいという気持ちとがせめぎ合い……

……もう少し。

……もう少しだけ、見ていたい。


好きな人の寝顔を見るのが大好き。

寝顔なら、好きな人の顔をずっと見ていられるからかな。
顔を合わせて会話していても、顔をじっと見るわけじゃないし、下手に見てると見返されて恥ずかしいし、向こうが見られてるって気づかない場面でも、これほどまじまじ見つめられない。

好きな人と一緒に寝て、朝を迎えて、先に起きて、寝顔を眺めて、幸せをかみしめるのが大好きだった。普段だとなかなかできない、頭をなでたり、頬に触れたり、キスしたりってこともできたりして。


–––––––触れたい。


そう思っても、実行する気にはなれなかった。

部屋に流れるベートーヴェンのおかげだ。

清廉で健全な音楽が、邪な欲望にブレーキをかけてくれた。

ただひたすら寝顔を見つめて、胸がぎゅーっとなる感じとか、好きだなって気持ちを噛み締めるだけ。


……もうすぐ第3楽章が終わる。

第4楽章の大音量で目が覚めるだろう。

私は手に持っていたブランケットを、出海君の身体にかけて、部屋を出た。





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