元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
さて、どんな意味かな。
出海君はどこまで“話した”んだろう?

たぶん彼は、私に練習場所を提供していることは言っていないと思う。男の人はそういうことを言わないものだと思うし、出海君なら尚更そういうことは口外しないという確信がある。
おそらく、私と同じ会社・同じフロアで働いていることくらいにとどめているはず。

ならば三神君のこれは、たぶん引っ掛けだ。
この人、妙に勘が鋭い上に、他人の色恋沙汰に首を突っ込みたがる性格なのだ。
私にとっては大きなお世話でしかないので、シラを切ることにする。

「そうですか。会社で同じフロアにいますからね」

「一緒でどうですか?」

「向こうは重役ですから、あまり接点がないんですよ」

「そうですか」

「じゃ、明日の朝早いのでお先に失礼します」

「出海先輩によろしくお伝えください」

「重役に個人的なお話はしにくいのでお約束いたしかねます」

三神君は苦笑しながら「お疲れ様でした」と見送ってくれた。





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