元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
引っ越しですよね、と続けようとしたら、その前に出海君が「よかった」と立ち上がり、リビングのキャビネットの上から、紙を持ってきた。

「このコンサート、一緒に行きませんか」

……え?

嬉しい驚きに心臓が飛び跳ねた。

でも、その後に、渡されたコンサートチラシを見て、戸惑った。

ヨーロッパの超一流オーケストラの日本公演。

世界トップクラスの超有名指揮者。

ブラームスの交響曲第4番。
ラフマニノフの『パガニーニの主題による狂詩曲』、ソリストは黒川ミシェル。

かなりそそられるコンサート。

……でも。

ヨーロッパの超一流オケ。
チケット料金は私にとって恐ろしく高い。
諭吉先生が数枚飛んでいく。

さらに金額の問題だけでなくて、そんな敷居の高いところに、出海君と一緒に行くのは気が引ける。私にそんな資格はない。

これが国内オケだったらチケット代はたかが知れてるし、出海君と一緒に行くということに対してもそれほど抵抗を感じなくて済んだだろう。

でもこんなチャンス、この先二度とない。
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