ひとはだの効能

 改札を抜けると、まだ夏の名残が残る日差しが肌を焼いた。

 潮風を受けながら、両手一杯に荷物を抱え住宅地を歩く。五分ほど行くと、突き当りに海が見える。

 海を臨む交差点のワンブロック手前。国道沿いに立ち並ぶマンションの間から辛うじて海が見える場所に、俺の店はある。

 本当は海岸線に沿って走る国道沿いに店を開くのが希望だった。が、家賃の高さにあえなく挫折。地元の不動産屋に紹介されたのは、一つ手前の道路沿いに立つビルの一階。以前はアイスクリームショップだったという店舗だった。

 この場所なら、店の中からも海が見えるし、客席が広すぎないのもいい。店の前にテラス席を置く余裕もあり、家賃もぎりぎり想定内。慎重に検討した結果、ここを借りることにした。で、およそひと月の改装期間を経て、あと二週間ほどでオープン予定。

 三人掛けのカウンター席に、テーブル席が二つ。外のテラスに、テーブルがあと二つだけの小さな店。それが俺の店、Café Pregare(カフェ プレガーレ)だ。


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