夏の忘れもの
あれから十年。十八歳だった松井遥香(まつい はるか)は、二十八歳になった。
肌はずっと白くなったし、ソフトボールをするためには邪魔で短くしていた髪は、肩甲骨まで伸びている。
色気より食い気だったあの頃はしなかった化粧もするようになり、いくつかの恋も経験した。
当然だが、私は十八歳の私ではない。今、ここにいるのは二十八歳の私だ。
なのに、電光掲示板の母校の名前を見ると、あの頃に戻ったような気持ちになってしまう。
この場所には、魔物が住んでいると言われている。これも、その魔物のせいなのだろうか。
湧き上がる歓声が魔物の咆哮のように聞こえたことを思い出して、思わず唇を噛む。
十年前のあの日、彼らは魔物に飲み込まれたのだ。