イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

私はてっきり本人が電話してきたのだと思い新人の画家さんだと思っていた。でも……


『Ariel(アリエル)です』


その画家の名前を聞いた瞬間、ぶったまげて受話器を落としそうになる。


「はぁ? マジっすか?」


私はタメ口になっていたのも気付かないくらい仰天していたんだ。だって、Arielは私が大好きなもうひとりの画家だったから。


『はい、Arielが今回の新作の発表は、どうしても矢城ギャラリーさんでと言っていましたのでお願いしたのですが……』


えっ? Arielが直々に矢城ギャラリーを指名してくれたの?


実はここだけの話し、新太さんよりArielの方が好きだったりする。もちろんそれは作品がということ。Arielは正体不明の謎の画家で、公式のプロフィールにも、Arielというネームしか公表しておらず、国籍も年齢も非公開。


三年前に突然彗星の如く現れ、海外の著名な絵画展の賞を総なめにし、一気に注目を浴びた。


作品は人物画が多く"光の魔術師"と言われたフェルメールの再来とも言われ、女性ならではの柔らかなタッチで写真ではと見紛うのほどの写実的で綿密な表現が特徴。美術雑誌でもしょっちゅう特集が組まれ、今一番ホットな画家のひとりだ。


そのArielが、この矢城ギャラリーで新作発表の個展を開きたいと言ってきたんだ。興奮しない方がおかしい。

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