イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

「私はそんなこと望んでないって言っても言うこと聞かなくて……ホント、頑固なんだから」


クスリと笑う薫さんを見て、じゃあ、あれはどういうことなんだろうと不思議に思う。


「えっと、だったらなぜ、薫さんは私と零士先生が付き合ったと知った時、動揺して情緒不安定になったんですか?」


薫さんが「あぁ、それはね……」と言い掛けた時「私が話すよ」って聞き覚えのある声がした。


「環ちゃん……」


いつからそこに居たのか、私達のすぐ後ろに環ちゃんと輝樹君が立っていた。


「昨日の夜、常務さんが家に来て、ママがおかしくなっちゃった理由と、私のパパのこと、教えてくれたの」

「環ちゃんのお父さん?」

「うん、希穂ちゃんがウチのマンションに来た時、ママがある話題で凄く驚いていたの……覚えてる?」


急にそんなこと言われても、薫さんが驚いていたってことも思い出せない。


「ふふ……やっぱり分かんないか~。私のパパはね、先週の日曜日、ニューヨークで式を結婚挙げた画家……そこまで言えば分かるでしょ?」

「えっ? ええっ! まさか……」

「そう、そのまさか。私も初めてその話しを聞いた時は腰が抜けそうだったよ。でも、ママも認めたし、私のパパは間違いなく、画家の新太先生……」


新太さんが環ちゃんのお父さんだったなんて……ああっ、そうだ! やっと思い出した。私が薫さんのマンションに行った時、新太さんの絵が使われたコマーシャルを見て、彼には婚約者が居るって話しになったんだ。

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