君の本当をこの瞳で見つめて。
ようこそ、いらっしゃいませ


古ぼけた町の、シャッターが下りた活気のない商店街。

そんな町が私の生まれ故郷。

キャリーバッグを転がしながら、そんな人気のない商店街を歩く。

昔はこんな寂れた町じゃなかったのに、どんどんと過疎化が進んでいった結果がこれなんだろう。

子供たちのあの楽しそうな声が響いていた駄菓子屋や、店の呼びかけをするあの八百屋さんのおじさんの声も、町をアピールする放送も、今はただ風が流れてシャッターが揺れる音しか聞こえてこない。


……私も大人になったんだな。


高校を卒業して都会に憧れていた私は、家を出て高いビルに囲まれた都心に移り住み
、人にもみくちゃにされながら、毎日同じ景色を電車の中で泣きそうになりながら見ていた。

そんな生活にも慣れて、ただ時間が流れるままに生きてた私も今年で25。

安定してきたまずまずの収入に、移り住んだ環境に慣れて自分の時間を手に入れることとできるようになってきた。

そんな時、中学時代の友達から唐突に連絡が入った。

それをきっかけに、久々に実家でのんびりと暮らしているであろう両親の顔が見たくなった。


それに、会いたい人もいる。


幼い頃に描いた甘い初恋の物語は終わっているはずなのに、友達と昔話をしていたらひょんなことからその話になって思い出した、私の想い人。

この町から離れることはせず、今は小さな会社のオフィスで働いているらしい。

何に期待を抱いているんだか分からないけど、ちょっとだけドキドキしてる私がいる。


心の奥底に仕舞い込んだ傷を庇いながら。




< 1 / 81 >

この作品をシェア

pagetop