結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
……全身がフリーズする。

つ、“付き合ってくれ”? どこに? まさか、“交際してくれ”なんて意味じゃ……え?

困惑しまくる私の脳はバグを起こし始めている。床を拭いていた後輩も手を止め、ギョッとした顔で私たちを見上げているから、聞き間違いではないはず。

固まって間抜けな顔をしているだろう私に、社長は少し眉を下げて微笑む。


「突然こんなことを言って、困らせてしまって申し訳ない。でも、私には君が必要なんだ」


再び真剣な調子で頼まれ、ついに私の思考はストップした。

嘘、ありえない、泉堂社長が私を求めてくれるなんて。

あまりの衝撃で身体から力が抜け、ふらつく足を半歩後ろに引いた。その瞬間、まだ床に油が残っていたらしくつるりと滑り、身体が後ろに傾く。


「きゃ……っ!?」


やばい、転ぶ……!

反射的にギュッと目をつぶった直後、身体がしっかりと支えられる感覚がした。重力に抗えないひやっとする感じも、痛さもない。

感じるのは、ほんのり鼻をかすめる甘さと爽やかさが絶妙な香りと、包み込まれるような安心感。

開いた目には、白いワイシャツの襟とブルーのネクタイが飛び込んでくる。おずおずと目線を上げれば、普段見ることなんてないセクシーな顎のラインが見え、息が止まった。

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