結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「おと……さん……」
「倉橋さん? 倉橋さん、聞こえる?」
いつの間にか、また暗い世界が明るくなるシーンに逆戻りしている。しかし、頭に響いてくるのはお父さんとは違う人の声。
ゆっくりゆっくり、重い瞼を押し上げると、ぼんやりした視界に声の主と思われる人物が映った。
「あぁ、よかった。今、先生を呼びましたからね」
心底安堵したようなため息を漏らすその人の顔が、次第にクリアになってくる。
クリーム色の天井をバッグに私を覗き込んでいるのは、一度見たら忘れられない眉目秀麗な彼だ。
「しゃ、ちょう……?」
あれ、どうして泉堂社長が……というか、ここはどこ? お父さんと会ったのは夢だったということはわかったけれど、いまいち状況を理解できない。
ぼうっとしたまま呟くと、社長は優しい眼差しを私に向けながら教えてくれる。
「覚えていますか? 研究室で転んで頭を打ったんです。目立った怪我はないみたいですが、意識を失くしていたので救急車を呼びました」
記憶喪失になったわけではないので、すぐに思い出した。とんでもない失態をしてしまったことを。
しかも、社長はこの病院にまで付き添ってくれている。いろいろヤバいって、私!