結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「倉橋がそれだけ彼の気持ちを動かしたってことだ。グラースについては、お前ほど細かいリサーチができなかったから助かった。本当にありがとう」


タクシーが見えなくなり、社長は私に向かって軽く頭を下げた。その姿を見て、ものすごく恐縮しながらもじわじわと胸が熱くなる。

私は偶然きっかけを作ることができただけ。でも、葛城さんとの関係を未来へと繋げられたことは事実だ。


「私たち、味方にできたんですね……あの、難攻不落の天才パティシエを!」


難関の課題を解くことができたような達成感が込み上げ、両手を口元に当てて喜びの声を上げた。

とりあえず、グラース食べておいてよかったー!

葛城さんがいなくなったことでだいぶ気がラクになり、心の中でひとりお祭り状態になっていた、そのとき。


「ひゃ──っ」


腕を引っ張られ、急に酔いが回ったかのように身体がふらついた。

気がつけば、ほのかに社長の香りがするスーツに顔がくっついて、眼鏡がズレている。

……いや、顔だけじゃなくて、全身すっぽりと彼の腕の中に包まれている!

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