彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
最後の……

今日でほんとに最後で 最後の日だから ……伝えてもいいですか?

金曜日。

主任がここに出勤するのは今日で最後。聞いていたように朝から外出中。

今日も私はヘルプでカウンターに入ってる。次々にお客様の対応に追われて、昼食の時間もたいしてとれないまま。だけど、たっぷりの休憩時間があった所で、どうせ食べ物なんて喉を通らないけど。

カウンターの隣の席には、遅番で出勤してきた望亜奈さんが座っている。
この週末も出勤することになったらしく、「彼とのデートだったのにぃ」なんて言ってた。
今週会えなくても、またすぐに約束できるんだからいいじゃない。なんて心の中で、性格の悪い私が悪態をついてる。

あぁダメダメ。
自分が主任に会えなくなるからって、望亜奈さんを妬んじゃダメ。

わかってはいるけど、
わかっていても、
そんな風に考えちゃう。

次のお客様が目の前に座り、そこで思考が遮断される。

今は、仕事中。
集中しなきゃ。



就業時間が近づくと店長がきて、カウンター業務から解放された。
自分のデスクに戻り、時間一杯まで書類の整理をはじめた。

ほんとに今日で最後なんだ……

しばらくすると主任たちが戻ってきた。
送別会の時間に間に合うように、帰ってきたらしい。

就業時間も過ぎていたので、いつの間にかみんなに囲まれている。
普段は仕事以外の話をしない主任も、今日は最後だからかみんなと話していた。
その輪の中に入れずにいる私。今はただ、少し離れた席からその様子を見るともなしに視線を送っていた。


ハァー


来週からは目の前のデスクに座る主任には会えない。
この場所で会えなくなるばかりか、もしかしたら本当にもう二度と会えなくなるのかもしれない。
朝起きたら、それがただ悲しい夢だったっていうオチだったりしないかと何度も思った。
もちろん夢でも何でもなくて、現実で無情にもその日はやってきてしまった。


「そろそろ、いける人から移動してください」


今日の幹事だという同期が大きな声でみんなに移動を促した。
店舗の人たちはあとで合流するらしい。
噂によれば、今日出勤してる人(アルバイトも含めて)は、全員参加するらしい。
仕事に厳しい主任だったけど、それでもこんなに別れを惜しむ人たちがいることに、怖いだけの人じゃなかったんだなって改めて思う。

私も帰り支度をして、みんなのあとについていく。
遠くにいる主任が見えないように。
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